目次
- はじめに:素粒子物理学の最大の謎
- 超対称性理論とは何か
- 標準理論の限界と新しい物理学の必要性
- 超対称性が予言する美しい世界
- フェルミオンとボソンの対称性
- 超対称性が解決する三つの重大問題
- 階層性問題:なぜヒッグス粒子は軽いのか
- 暗黒物質の候補としての超対称粒子
- 力の統一への道筋
- 超対称粒子の探索:大型ハドロン衝突型加速器での挑戦
はじめに:素粒子物理学の最大の謎
現代物理学は、宇宙を構成する最も基本的な粒子とその相互作用を記述する「標準理論」という驚くべき枠組みを確立しました。この理論は、電子やクォーク、光子といった素粒子の振る舞いを極めて高い精度で予言し、実験的に検証されてきました。2012年にヒッグス粒子が発見されたことで、標準理論の最後のピースが埋まり、その成功は頂点に達したかのように見えました。
しかし、物理学者たちは標準理論だけでは説明できない深刻な問題に直面しています。宇宙の質量の約85パーセントを占める暗黒物質の正体、重力を量子論的に記述する方法、そして宇宙の加速膨張を引き起こす暗黒エネルギーの起源など、未解決の謎は山積しています。こうした問題を解決する有力な候補として、1970年代から理論物理学者たちが注目してきたのが「超対称性」という革新的なアイデアです。
超対称性理論は、既知のすべての素粒子に対して、まだ発見されていない「超対称パートナー」が存在すると予言します。この理論が正しければ、物理学の多くの謎が一気に解決される可能性があります。しかし、世界最大の粒子加速器である大型ハドロン衝突型加速器を用いた長年の探索にもかかわらず、超対称粒子の証拠は一切見つかっていません。
なぜ超対称粒子は見つからないのでしょうか。超対称性理論は間違っているのでしょうか、それとも私たちの探し方が不十分なのでしょうか。本記事では、超対称性理論の基礎から最新の実験結果、そして超対称性の破れのメカニズムまで、この現代物理学最大の謎に迫ります。
超対称性理論とは何か
標準理論の限界と新しい物理学の必要性
素粒子物理学の標準理論は、20世紀後半の物理学の最大の成果の一つです。この理論は、物質を構成する基本的な粒子として6種類のクォークと6種類のレプトン(電子やニュートリノなど)を想定し、それらが電磁気力、弱い力、強い力という三つの基本的な力を媒介する粒子(光子、ウィークボソン、グルーオン)を交換することで相互作用すると説明します。
標準理論の予言は、実験によって驚くべき精度で検証されてきました。たとえば、電子の磁気モーメントの理論値と実験値は、小数点以下10桁まで一致しています。これは、東京からニューヨークまでの距離を髪の毛一本の精度で測定することに匹敵する正確さです。このような成功にもかかわらず、標準理論には深刻な限界があることが知られています。
第一に、標準理論は重力を記述できません。アインシュタインの一般相対性理論が重力を時空の曲がりとして記述するのに対し、標準理論は量子場の理論として構築されています。重力を量子論的に扱おうとすると、計算に無限大が現れて理論が破綻してしまうのです。
第二に、標準理論には19個もの自由パラメータ(理論では決定できず、実験から測定するしかない定数)が存在します。なぜ電子の質量は特定の値なのか、なぜクォークは6種類なのか、これらの疑問に標準理論は答えることができません。より基本的な理論であれば、これらのパラメータを原理から導出できるはずだと多くの物理学者は考えています。
第三に、宇宙論的観測から明らかになった暗黒物質と暗黒エネルギーの存在を、標準理論は説明できません。銀河の回転速度や重力レンズ効果の観測から、宇宙には目に見える物質の約5倍の質量を持つ暗黒物質が存在することが分かっています。しかし、標準理論に含まれるどの粒子も、暗黒物質の性質と一致しないのです。
こうした問題を解決するために、物理学者たちは標準理論を超える新しい理論を探求してきました。その中で最も有望視されてきたのが超対称性理論です。
超対称性が予言する美しい世界
超対称性、または英語の頭文字をとってSUSY(スージー)と呼ばれるこの理論は、自然界に新しい種類の対称性が存在すると主張します。対称性とは、ある操作を行っても物理法則が変わらないという性質のことです。たとえば、物理法則は空間のどこでも同じであり(並進対称性)、どの方向を向いても同じです(回転対称性)。
超対称性は、フェルミオンとボソンという二つの基本的な粒子の種類を入れ替える操作に関する対称性です。フェルミオンは物質を構成する粒子(電子やクォークなど)で、パウリの排他原理に従います。つまり、同じ量子状態に二つ以上のフェルミオンは存在できません。一方、ボソンは力を媒介する粒子(光子やグルーオンなど)で、同じ状態にいくらでも存在できます。
通常、フェルミオンとボソンは全く異なる性質を持つため、互いに交換することはできません。しかし超対称性理論では、特殊な数学的操作によってフェルミオンをボソンに、ボソンをフェルミオンに変換できると考えます。この対称性が厳密に成り立つ世界では、すべてのフェルミオンに対応するボソン(超対称パートナー)が存在し、すべてのボソンに対応するフェルミオンが存在します。
標準理論の粒子に対する超対称パートナーには、特別な命名規則があります。フェルミオンの超対称パートナー(ボソン)には、元の粒子名の頭に「s」を付けます。たとえば、電子の超対称パートナーは「セレクトロン」、クォークの超対称パートナーは「スクォーク」と呼ばれます。一方、ボソンの超対称パートナー(フェルミオン)には、語尾に「ino」を付けます。光子の超対称パートナーは「フォティーノ」、グルーオンの超対称パートナーは「グルイーノ」となります。
超対称性が厳密に成り立つ世界では、粒子とその超対称パートナーは質量以外のすべての量子数(電荷、スピンなど)が関係づけられます。そして驚くべきことに、厳密な超対称性のもとでは、粒子とその超対称パートナーは全く同じ質量を持つことが数学的に証明されます。
フェルミオンとボソンの対称性
素粒子物理学において、粒子はスピンという固有の角運動量によって分類されます。スピンは量子力学特有の性質で、古典的な回転とは異なる概念ですが、粒子の統計的性質を決定する重要な量です。
スピンが半整数(2分の1、2分の3など)の粒子をフェルミオンと呼びます。電子、クォーク、ニュートリノなど、物質を構成する粒子はすべてフェルミオンです。フェルミオンはフェルミ・ディラック統計に従い、パウリの排他原理が成り立ちます。この原理があるからこそ、原子内の電子は異なる軌道を占め、物質は安定な構造を持つことができます。
一方、スピンが整数(0、1、2など)の粒子をボソンと呼びます。光子、グルーオン、ウィークボソン、ヒッグス粒子などがボソンです。ボソンはボース・アインシュタイン統計に従い、同じ量子状態にいくらでも存在できます。レーザー光が強力な光を発することができるのは、多数の光子が同じ状態に存在できるためです。
標準理論では、フェルミオンとボソンは明確に区別され、互いに変換することはできません。しかし超対称性理論では、これら二つのカテゴリーを結びつける数学的枠組みが導入されます。
超対称性変換は、時空の座標変換(並進や回転)とは異なる、より抽象的な変換です。この変換は「グラスマン数」と呼ばれる特殊な数学的対象によって記述されます。グラスマン数は反交換する変数で、通常の数とは異なり、掛ける順序を入れ替えると符号が変わります。この性質が、フェルミオンとボソンの交換を可能にするのです。
超対称性代数では、通常の空間対称性に加えて、フェルミオンとボソンを交換する生成子が導入されます。この生成子を粒子の状態に作用させると、フェルミオンはボソンに変換され、ボソンはフェルミオンに変換されます。重要なのは、この変換が粒子のエネルギーと運動量を保存するという点です。
数学的に言えば、超対称性代数はポアンカレ代数(時空の対称性を記述する代数)の拡張になっています。この代数の表現論を研究することで、超対称粒子がどのような多重項(一緒に変換される粒子の組)を形成するかが分かります。最も単純な超対称性(N=1超対称性と呼ばれます)では、1個のフェルミオンと1個または2個のボソンが多重項を形成します。
超対称性が解決する三つの重大問題
階層性問題:なぜヒッグス粒子は軽いのか
超対称性理論が物理学者たちに支持されてきた最大の理由は、標準理論が抱える「階層性問題」を自然に解決できることです。この問題は、ヒッグス粒子の質量に関する深刻なパズルです。
2012年に発見されたヒッグス粒子の質量は約125ギガ電子ボルト(GeV)でした。これは陽子の質量の約133倍に相当し、素粒子としては比較的重い部類に入ります。しかし、量子力学の観点から見ると、ヒッグス粒子の質量は不自然なほど軽いのです。
量子場理論では、粒子は真空中でも絶えず生成と消滅を繰り返す「仮想粒子」と相互作用します。これを量子補正と呼びます。ヒッグス粒子の場合、特にトップクォーク(最も重いクォーク)の仮想粒子との相互作用が、ヒッグス粒子の質量を大きく増加させます。
問題は、この量子補正の大きさです。理論計算によれば、量子補正はプランクスケール(約10の19乗GeV、量子重力効果が重要になるエネルギースケール)程度まで、ヒッグス粒子の質量を押し上げてしまいます。観測されたヒッグス粒子の質量125GeVとプランクスケールとの間には、実に17桁もの差があります。
なぜヒッグス粒子の質量は、量子補正によって巨大な値にならずに済んでいるのでしょうか。標準理論では、この問題に答えるために、「素の質量」(量子補正を受ける前の質量)を精密に調整して、量子補正と打ち消し合うように設定しなければなりません。しかし、この調整は小数点以下17桁の精度が必要で、極めて不自然です。
超対称性理論は、この問題に対してエレガントな解決を提供します。超対称性が存在すると、各フェルミオンによる量子補正は、その超対称パートナーであるボソンによる量子補正によって正確に打ち消されます。逆に、各ボソンによる量子補正は、その超対称パートナーであるフェルミオンによる量子補正で打ち消されます。
具体的に言えば、トップクォークがヒッグス粒子の質量を増加させる効果は、ストップ(トップクォークの超対称パートナー)が減少させる効果によって相殺されます。この相殺は、超対称性の数学的構造から自動的に生じるもので、人為的な調整を必要としません。
ただし、ここには重要な条件があります。完全な相殺が起こるのは、超対称性が厳密に成り立つ場合、つまり粒子とその超対称パートナーの質量が等しい場合だけです。もし超対称性が破れていて、超対称パートナーの質量が元の粒子よりも重ければ、相殺は不完全になります。それでも、超対称粒子の質量が数TeV程度であれば、階層性問題は大幅に緩和されます。
暗黒物質の候補としての超対称粒子
超対称性理論が魅力的な理由の二つ目は、宇宙最大の謎の一つである暗黒物質の正体を説明できる可能性があることです。
暗黒物質は、光を放射も吸収も反射もしないため、望遠鏡では直接観測できませんが、重力を通じてその存在が確認されています。銀河の回転速度、銀河団内の銀河の運動、重力レンズ効果、宇宙マイクロ波背景放射の温度揺らぎなど、多様な観測から、宇宙には通常の物質(原子で構成される物質)の約5倍の質量を持つ暗黒物質が存在することが分かっています。
暗黒物質の候補として、多くの理論モデルが提案されてきました。その中で最も有力視されてきたのが「弱い相互作用をする重い粒子」、英語の頭文字からWIMP(ウィンプ)と呼ばれる仮説的な粒子です。WIMPは電磁気的に相互作用せず(だから光を出さない)、弱い力と重力のみで相互作用すると考えられています。
超対称性理論は、自然にWIMPの候補を提供します。多くの超対称性モデルでは「R-パリティ」と呼ばれる新しい保存則が導入されます。R-パリティは、標準理論の粒子に対しては+1、超対称粒子に対しては-1の値を割り当てる量です。R-パリティが保存されると、超対称粒子は必ずペアで生成され、最も軽い超対称粒子(LSP: Lightest Supersymmetric Particle)は安定になります。
最も軽い超対称粒子は崩壊できないため、宇宙誕生以来ずっと存在し続けることができます。もしLSPが電気的に中性で、弱い相互作用のみをする粒子であれば、暗黒物質の候補として理想的です。
多くの超対称性モデルで、LSPの有力候補とされているのが「ニュートラリーノ」です。ニュートラリーノは、光子の超対称パートナーであるフォティーノ、Z粒子の超対称パートナーであるジーノ、そしてヒッグス粒子の超対称パートナーであるヒグシーノが混ざり合った粒子です。ニュートラリーノは電気的に中性で、弱い相互作用と重力のみで相互作用するため、WIMPの性質を満たします。
理論計算によれば、ニュートラリーノの質量が数百GeVから数TeVの範囲にあれば、初期宇宙でニュートラリーノが生成され、宇宙の膨張とともに希釈され、現在観測される暗黒物質の密度と一致する量が残ることになります。この「WIMPの奇跡」と呼ばれる一致は、超対称性理論の大きな魅力の一つでした。
力の統一への道筋
超対称性理論が支持される三つ目の理由は、自然界の基本的な力の統一に向けた道筋を示すことです。
標準理論は、電磁気力、弱い力、強い力という三つの力を記述しますが、これらは見かけ上異なる強さを持っています。しかし、力の強さはエネルギースケールに依存して変化することが知られています。これを「ランニング」と呼びます。
量子場理論の計算によれば、エネルギーが高くなるにつれて、電磁気力の結合定数は大きくなり、強い力の結合定数は小さくなります。弱い力の結合定数も変化します。理論的には、十分に高いエネルギーでこれら三つの力の強さが一致し、単一の力として統一される可能性があります。これを「大統一理論」(GUT: Grand Unified Theory)と呼びます。
標準理論だけでは、三つの力の結合定数を高エネルギーまで外挿しても、一点で交わることはありません。計算すると、三つの線はバラバラな点で交差してしまい、力の統一は実現しません。
ところが、超対称性を導入すると状況が劇的に変わります。超対称粒子の存在は、結合定数のランニングを変更します。超対称性理論で計算すると、三つの力の結合定数は約10の16乗GeVという極めて高いエネルギー(大統一スケールと呼ばれます)で見事に一点で交わるのです。この精密な一致は、超対称性が自然界の基本原理である可能性を強く示唆していました。
大統一理論が正しければ、陽子のような安定な粒子も極めて長い時間スケール(10の34乗年程度)で崩壊すると予言されます。これまでの実験では陽子崩壊は観測されていませんが、より高感度の実験が進行中です。
さらに、超対称性は重力を含む究極の統一理論である「超弦理論」の中核をなす概念でもあります。超弦理論では、粒子は点ではなく、微小な弦として記述され、その振動モードが異なる粒子として現れます。超弦理論が数学的に整合性を持つためには、超対称性が必須です。つまり、超対称性の検証は、究極の理論への道を開く鍵となるのです。
超対称粒子の探索:大型ハドロン衝突型加速器での挑戦
超対称性理論の魅力を認識した物理学者たちは、超対称粒子を実際に発見するための実験を開始しました。最も有望な探索の場は、スイスとフランスの国境にまたがる欧州原子核研究機構(CERN)の大型ハドロン衝突型加速器(LHC)です。
LHCは円周27キロメートルの地下トンネルに建設された世界最大の粒子加速器です。陽子を光速の99.9999パーセントまで加速し、正面衝突させることで、1回の衝突あたり最大14TeVという膨大なエネルギーを発生させます。このエネルギーは、アインシュタインの有名な公式E=mc²に従って、新しい重い粒子を生成するために使われます。
超対称粒子の探索戦略は、理論モデルに依存します。もし超対称粒子の質量が数百GeVから数TeVの範囲にあれば、LHCのエネルギーで生成可能です。R-パリティが保存される標準的な超対称性モデルでは、超対称粒子は必ずペアで生成され、最終的には安定なLSPに崩壊します。LSPは検出器と相互作用しないため、「欠損エネルギー」として間接的に検出されます。
具体的な探索シグナルとしては、複数のジェット(クォークやグルーオンから生じる粒子の束)と大きな欠損エネルギーを伴う事象、あるいは複数のレプトン(電子やミューオン)と欠損エネルギーを伴う事象などが探索されてきました。
LHCでの探索は2010年に本格的に開始され、2012年にはヒッグス粒子の発見という大きな成果を上げました。しかし、超対称粒子に関しては、これまでのところ明確な証拠は見つかっていません。ATLAS検出器とCMS検出器という二つの大型検出器での膨大なデータ解析の結果、超対称粒子の質量に対する下限値が次々と引き上げられてきました。
現在のデータによれば、グルイーノ(グルーオンの超対称パートナー)の質量は少なくとも2TeV以上、スクォーク(クォークの超対称パートナー)の質量は1から2TeV以上である必要があります。これらの値は、当初期待されていた「自然な」超対称性のエネルギースケール(数百GeV程度)をはるかに超えています。
超対称粒子が見つからないという事実は、物理学コミュニティに大きな衝撃を与えました。階層性問題を自然に解決するためには、超対称粒子の質量はヒッグス粒子の質量に近い必要があります。しかし、実験的下限値が上がるにつれて、再び精密な調整が必要になり、超対称性の本来の魅力が失われつつあるのです。
それでも、物理学者たちは探索を諦めていません。LHCは2029年まで運転を続け、より多くのデータを収集する予定です。また、将来の高エネルギー衝突型加速器の計画も進められています。超対称粒子の質量が予想よりも重ければ、より高いエネルギーでの探索が必要になります。
さらに、LHCでの直接探索以外にも、暗黒物質の直接検出実験や間接検出実験、精密測定実験など、多様なアプローチで超対称性の痕跡が探索されています。たとえば、ミューオンの異常磁気モーメントの精密測定では、標準理論の予言と実験値との間に小さな食い違いが報告されており、これを超対称粒子の寄与で説明できる可能性があります。
超対称性の破れ:理論と現実のギャップ
超対称性理論の最大の課題は、なぜ私たちの宇宙では超対称性が「破れている」のかという問題です。理論が予言する美しい対称性の世界と、実際に観測される非対称な現実との間には、深い溝が存在します。この章では、超対称性の破れのメカニズムと、それが実験結果に与える影響について詳しく見ていきます。
自発的対称性の破れという現象
物理学において、対称性の破れは決して珍しい現象ではありません。実際、私たちが日常的に経験する多くの現象は、何らかの対称性が破れた結果として理解されます。水が凍って氷になる過程を考えてみましょう。液体の水は、あらゆる方向に対して対称的です。どの方向から見ても同じ性質を持っています。しかし、水が氷になると、結晶構造が形成され、特定の方向性が生まれます。この過程で、回転対称性が自発的に破れるのです。
素粒子物理学でも、同様のメカニズムが重要な役割を果たしています。電弱対称性の自発的破れは、ヒッグス機構として知られ、ウィークボソンが質量を獲得する仕組みを説明します。真空が特定の状態を選び取ることで、もともと対称的だった理論から非対称な現実が生まれるのです。
超対称性の破れも、基本的には同じ原理に基づいていると考えられています。理論的には完全に対称な超対称性理論が、真空状態において自発的に破れることで、粒子とその超対称パートナーの質量差が生じるのです。しかし、超対称性の破れには特有の困難があります。通常の対称性の破れとは異なり、超対称性は時空の対称性と深く結びついているため、破れのメカニズムには特別な配慮が必要なのです。
超対称性が破れる際には、「Fタームの破れ」と「Dタームの破れ」という二つの主要なメカニズムが知られています。Fタームの破れは、スカラー場の補助場が真空期待値を持つことで起こります。一方、Dタームの破れは、ゲージ場の補助場が真空期待値を持つことで実現します。どちらのメカニズムでも、破れのスケール(どれくらいのエネルギーで対称性が破れるか)が、超対称粒子の質量を決定する重要なパラメータとなります。
重力媒介による超対称性の破れ
超対称性の破れを説明する代表的なシナリオの一つが、「重力媒介超対称性の破れ」です。このシナリオでは、超対称性の破れは、私たちが観測できる「見える セクター」とは別の「隠れたセクター」で起こると考えます。
隠れたセクターは、標準理論の粒子とは直接相互作用せず、重力を通じてのみ結びついています。このセクターで超対称性が破れると、その効果は重力相互作用を媒介として見えるセクターに伝わり、標準理論の粒子の超対称パートナーに質量を与えます。重力は非常に弱い力ですが、プランクスケール(10の19乗GeV程度)という極めて高いエネルギースケールに関わるため、結果として超対称粒子に適切な質量(TeVスケール)を与えることができます。
重力媒介シナリオの魅力は、破れのメカニズムの詳細に依存せず、比較的一般的な枠組みで超対称性の破れを記述できることです。隠れたセクターで何が起こっているかを詳しく知らなくても、重力を通じた効果を計算することで、超対称粒子の質量スペクトルを予言できます。
しかし、このシナリオには重要な問題も存在します。重力媒介では、異なる種類の超対称粒子に似たような質量が与えられる傾向があります。特に、スカラー粒子(スクォークやスレプトン)の質量が縮退すると、「フレーバー変換中性カレント」と呼ばれる稀な過程が過剰に起こってしまう可能性があります。
具体的には、カオン中間子やB中間子の稀な崩壊過程の精密測定から、スクォークの質量の世代間の差に厳しい制限が課せられています。この問題を回避するためには、第一世代と第二世代、第三世代のスクォークの質量パターンに特別な構造が必要になります。これを実現する様々なメカニズムが提案されていますが、どれも追加的な仮定を必要とします。
ゲージ媒介による超対称性の破れ
重力媒介の問題を解決する代替案として提案されたのが、「ゲージ媒介超対称性の破れ」です。このシナリオでは、超対称性の破れの効果は、重力ではなく標準理論のゲージ相互作用を通じて伝達されます。
ゲージ媒介モデルでは、隠れたセクターと見えるセクターの間に「メッセンジャー場」と呼ばれる新しい粒子が導入されます。メッセンジャー場は、隠れたセクターと標準理論のゲージ相互作用の両方と結合します。隠れたセクターで超対称性が破れると、メッセンジャー場を通じて、その効果が標準理論のゲージ相互作用に伝わり、最終的に超対称粒子に質量が生じます。
ゲージ媒介の大きな利点は、フレーバー変換中性カレント問題を自然に回避できることです。ゲージ相互作用は世代に依存しない普遍的な相互作用なので、同じ世代の粒子には自動的に同じ質量が与えられます。異なる世代間の質量の差は、元の粒子(クォークやレプトン)の湯川結合の違いから生じ、観測と矛盾しないパターンが自然に実現します。
さらに、ゲージ媒介モデルでは、最も軽い超対称粒子がグラビティーノ(重力子の超対称パートナー)になる傾向があります。グラビティーノは重力相互作用しかしないため、通常のLSPよりもさらに検出が困難です。このため、LHCでの探索シグナルは標準的な超対称性モデルとは異なるパターンを示す可能性があります。
ゲージ媒介モデルの課題は、メッセンジャーセクターの構造に多くの自由度があることです。メッセンジャー場の質量スケール、メッセンジャーの数、隠れたセクターとの結合の強さなど、様々なパラメータが超対称粒子の質量スペクトルに影響を与えます。
異常媒介とその他のシナリオ
超対称性の破れを説明する第三のシナリオとして、「異常媒介」があります。このメカニズムは、超対称性理論に本質的に存在する「異常」という量子効果を利用します。異常とは、古典的には保存されている対称性が、量子補正によって破れる現象のことです。
超弦理論から導かれる超対称性モデルでは、特定のゲージ対称性が異常を持つことがあります。この異常をキャンセルするために導入されるメカニズム(グリーン・シュワルツ機構)が、同時に超対称性の破れを媒介する役割も果たします。異常媒介では、破れの効果は主にゲージーノ(ゲージボソンの超対称パートナー)に伝わり、スカラー粒子への効果は抑制されます。
この他にも、様々な破れのシナリオが提案されています:
シュレディンガーによる破れ: 余剰次元を持つ理論において、超対称性が特定の次元方向にのみ存在し、他の次元では破れているとするモデルです。余剰次元のコンパクト化によって、4次元の低エネルギー理論では超対称性が破れて見えます。
動的な破れ: 強い相互作用の非摂動的効果によって、超対称性が自発的に破れるメカニズムです。量子色力学におけるカイラル対称性の破れと類似の現象が、超対称性にも起こると考えます。
ゲージーノ媒介: 重力媒介とゲージ媒介の中間的な性質を持つシナリオで、ゲージーノの質量が他の超対称粒子よりも先に生成され、それがループ効果を通じて他の粒子に質量を与えるというモデルです。
どのシナリオが正しいかは、実験的に超対称粒子を発見し、その質量スペクトルを詳しく測定することで初めて判明します。それぞれのシナリオは、超対称粒子の質量パターン、崩壊様式、生成断面積などに特徴的な予言を与えるため、実験データとの比較によって区別できる可能性があります。
LHCでの探索戦略とその限界
大型ハドロン衝突型加速器での超対称粒子探索は、世界中の何千人もの物理学者が参加する壮大なプロジェクトです。しかし、超対称粒子を見つけることは、干し草の山から針を探すような困難な作業です。この節では、LHCでの具体的な探索戦略と、その限界について解説します。
カラード超対称粒子の探索
LHCでの超対称粒子探索において、最も重要なターゲットの一つが「カラード超対称粒子」、つまり強い相互作用をする超対称粒子です。具体的には、スクォークとグルイーノがこれに該当します。これらの粒子は強い相互作用によって大量に生成されるため、もし質量がLHCのエネルギー範囲内にあれば、比較的容易に発見できると期待されていました。
陽子衝突では、陽子を構成するクォークやグルーオンが高エネルギーで衝突し、新しい粒子を生成します。スクォークやグルイーノは、クォーク-反クォーク対の衝突やグルーオン-グルーオンの衝突によってペアで生成されます。生成されたスクォークやグルイーノは非常に不安定で、瞬時に崩壊します。
典型的な崩壊過程では、スクォークはクォークとニュートラリーノまたはチャージーノ(ウィークボソンの超対称パートナー)に崩壊します。グルイーノは、クォーク-反クォーク対とニュートラリーノ、またはスクォークに崩壊します。最終的には、複数のクォーク(ジェットとして観測される)と最も軽い超対称粒子が生成されます。
LHCの検出器で観測される特徴的なシグナルは以下の通りです:
多重ジェット事象: スクォークやグルイーノの崩壊から複数のクォークが生じ、これらは検出器内で「ジェット」として観測されます。典型的な超対称性事象では、4本以上の高エネルギージェットが期待されます。
大きな欠損エネルギー: 最も軽い超対称粒子は検出器と相互作用せずに逃げていくため、エネルギーと運動量の保存則から計算される「欠損エネルギー」として間接的に検出されます。超対称性事象では、非常に大きな欠損エネルギーが特徴です。
レプトンの有無: 崩壊過程でチャージーノやスレプトンが関与する場合、電子やミューオンなどのレプトンも最終状態に含まれる可能性があります。レプトンを含む事象は、標準理論の背景事象から区別しやすいため、特に重要な探索チャンネルとなります。
実験グループは、膨大な数の衝突事象から、これらの特徴を持つ事象を選び出します。しかし、標準理論の過程でも似たような事象が生じるため、注意深い解析が必要です。特に、トップクォーク対生成やWボソン、Zボソンとジェットが同時に生成される過程は、超対称性のシグナルと類似しており、主要な背景事象となります。
現在までの探索結果から、グルイーノの質量は少なくとも2.3TeV以上、第一世代と第二世代のスクォークの質量は1.8TeV以上という下限値が得られています。これらの値は、初期に期待されていた「自然な超対称性」の予想を大きく上回っています。
電弱相互作用をする超対称粒子の探索
カラード超対称粒子に加えて、電弱相互作用のみをする超対称粒子の探索も重要です。チャージーノ、ニュートラリーノ、スレプトンなどがこれに該当します。これらの粒子は強い相互作用をしないため、生成断面積が小さく、カラード超対称粒子よりも発見が困難です。
電弱相互作用をする超対称粒子の探索では、以下のようなシグナルが探索されます:
ジレプトン事象: スレプトンのペア生成では、2個のレプトンと欠損エネルギーを伴う事象が期待されます。電子対、ミューオン対、あるいは電子とミューオンの組み合わせなど、様々なフレーバーの組み合わせが探索されます。
三レプトン事象: チャージーノとニュートラリーノのペア生成では、3個のレプトンと欠損エネルギーを伴う特徴的な事象が生じる可能性があります。この種の事象は標準理論では非常に稀で、背景が少ないため、超対称性の明確な証拠となり得ます。
ソフトレプトン: もしチャージーノと最も軽いニュートラリーノの質量差が小さい場合、チャージーノの崩壊で生じるレプトンのエネルギーは低くなります。このような「ソフトレプトン」を含む事象の探索も行われています。
電弱超対称粒子の探索においては、質量スペクトルの圧縮が大きな課題となります。もし超対称粒子間の質量差が小さければ、崩壊で生じる粒子のエネルギーが低くなり、検出器のトリガー閾値を下回ってしまう可能性があります。このような「圧縮スペクトル」のシナリオでは、通常の探索手法では感度が大幅に低下します。
圧縮スペクトルに対応するため、研究者たちは様々な工夫を凝らしています。初期状態放射(衝突前の陽子からのグルーオン放射)によって生じるジェットを利用する方法や、単一光子を伴う事象を探索する方法などが開発されています。これらの手法により、質量差が数十GeV程度の圧縮シナリオにも感度を持つようになってきました。
長寿命粒子と特殊なシグナル
超対称性理論には、通常とは異なる特殊なシグナルをもたらす可能性も存在します。その一つが「長寿命粒子」のシナリオです。標準的な超対称性モデルでは、生成された超対称粒子は瞬時に崩壊すると仮定されますが、特定の条件下では、超対称粒子が検出器内を横切るほど長い時間存在し続ける可能性があります。
長寿命粒子が生じる状況として、次のようなケースが考えられます。まず、崩壊に関与する結合定数が非常に小さい場合です。たとえば、R-パリティが僅かに破れている場合や、超対称粒子と最も軽い超対称粒子の質量差が極めて小さい場合などです。また、ゲージ媒介モデルにおいて、次に軽い超対称粒子がグラビティーノに崩壊する場合も、重力相互作用の弱さのために長寿命になります。
長寿命の荷電粒子は、検出器内を通過する際に独特の痕跡を残します。通常の粒子よりもゆっくり移動するため、飛行時間測定や電離損失の測定から識別できます。また、検出器の外側で崩壊する場合は、「消失飛跡」として観測されることもあります。これは、荷電粒子の軌跡が検出器の途中で突然消える現象です。
中性の長寿命粒子の場合は、さらに特徴的なシグナルが現れます。検出器内を相互作用せずに進み、検出器の外層部で崩壊すると、「遅延ジェット」や「遅延光子」として観測されます。また、検出器を通り抜けて外部で崩壊する場合は、宇宙線のような背景と区別する必要があります。
LHCの実験グループは、これらの特殊なシグナルに対する探索も実施しています。ATLAS検出器とCMS検出器は、タイミング情報を記録する能力を持ち、通常の衝突点から離れた位置での粒子の崩壊を検出できます。さらに、MoEDAL検出器のような専用の装置は、磁気モノポールなどのエキゾチックな長寿命粒子の探索に特化しています。
間接探索と精密測定
LHCでの直接探索に加えて、超対称性の痕跡を間接的に探る方法も重要です。超対称粒子は直接観測できなくても、仮想粒子として標準理論の過程に寄与し、観測可能な効果をもたらす可能性があります。
精密測定による間接探索の代表例が、ミューオンの異常磁気モーメントの測定です。ミューオンは電子の重い仲間で、磁場の中で特定の歳差運動をします。その周波数は、ミューオンの磁気モーメントから決まります。標準理論は、ミューオンの磁気モーメントを量子補正も含めて精密に計算できますが、2021年に報告されたフェルミ国立加速器研究所の実験結果は、標準理論の予言から約4.2標準偏差ずれていることを示しました。
この食い違いは、新しい物理学の存在を示唆している可能性があります。超対称粒子が仮想状態として寄与すれば、この差を説明できるかもしれません。特に、スミューオン(ミューオンの超対称パートナー)やニュートラリーノの質量が数百GeV程度であれば、観測された食い違いと整合的な寄与を与えることができます。ただし、この解釈にはまだ不確定性があり、標準理論の計算にも理論的な不確かさが残っています。
B中間子の稀な崩壊過程も、新しい物理学を探る重要な舞台です。LHCb実験では、ボトムクォークを含む中間子の崩壊を詳しく研究しています。いくつかの崩壊過程で、標準理論の予言からの小さなずれが報告されており、これも超対称粒子の寄与で説明できる可能性があります。
主な精密測定実験:
Belle II実験: 日本の高エネルギー加速器研究機構にある実験で、B中間子やタウレプトンの崩壊を高精度で測定しています。
LHCb実験: LHCに設置された専用検出器で、ボトムクォークやチャームクォークを含む粒子の性質を調べています。
MEG実験: ミューオンが光子と電子に崩壊するという、標準理論では極めて稀な過程を探索しています。この過程が観測されれば、新しい物理学の明確な証拠となります。
これらの精密測定は、LHCのエネルギーでは直接生成できない重い超対称粒子の効果を捉えられる可能性があります。仮想粒子として寄与する超対称粒子の質量が数TeVから数十TeVであっても、精密測定では間接的に検出できるのです。
超対称性理論の未来:どこへ向かうのか
超対称粒子がなかなか見つからないという現実は、理論物理学コミュニティに深刻な影響を与えています。しかし、これは必ずしも超対称性理論の終わりを意味するわけではありません。むしろ、理論の洗練と新しいアイデアの探求を促す契機となっています。
自然性の危機とその対応
超対称粒子の質量が予想以上に重いことは、「自然性」の原理に疑問を投げかけています。自然性とは、物理理論のパラメータが極端な精密調整なしに観測値と一致すべきだという考え方です。階層性問題を解決するために導入された超対称性ですが、超対称粒子の質量が数TeVになると、再び精密な調整が必要になってしまいます。
この状況に対して、物理学者たちは様々な方向性を模索しています。一つの考え方は、自然性の原理そのものを再考することです。人間原理的な議論によれば、私たちが観測する宇宙の性質は、私たち自身が存在できる条件によって選択されている可能性があります。マルチバース(多宇宙)の枠組みでは、異なるパラメータを持つ無数の宇宙が存在し、私たちはたまたま生命が誕生できる条件を満たした宇宙に存在しているのかもしれません。
別のアプローチは、「分割超対称性」や「ミニ分割超対称性」と呼ばれるシナリオです。これらのモデルでは、スカラー粒子(スクォークやスレプトン)の質量は非常に重く、現在の加速器では到達できないエネルギー領域にあると考えます。一方、フェルミオン型の超対称粒子(ゲージーノやヒグシーノ)は比較的軽く、TeVスケールに存在する可能性があります。
この考え方は、実験的制約と理論的動機をバランスさせる試みです。スカラー粒子が重ければ、フレーバー変換中性カレント問題は自動的に解決されます。一方、ゲージーノが軽ければ、暗黒物質の候補として機能でき、力の統一も実現できます。ただし、階層性問題の解決という超対称性の本来の動機は、このシナリオでは犠牲になります。
次世代加速器計画
LHCでの探索が続く一方で、物理学コミュニティは次世代の加速器計画を検討しています。これらの将来加速器は、より高いエネルギーやより高い衝突頻度によって、超対称粒子の探索範囲を大幅に拡大できる可能性があります。
高輝度LHC: 2029年から本格稼働する予定の高輝度LHCは、現在のLHCよりも10倍高い衝突頻度を実現します。これにより、稀な過程の探索感度が大幅に向上し、より重い超対称粒子や、生成断面積の小さい電弱超対称粒子の探索が可能になります。
将来円形衝突型加速器: 欧州では、円周100キロメートルの次世代円形衝突型加速器(FCC)の計画が進められています。第一段階では電子・陽電子衝突器として運転し、ヒッグス粒子の性質を極めて高精度で測定します。第二段階では陽子衝突器にアップグレードし、衝突エネルギー100TeVを達成する予定です。これは現在のLHCの約7倍のエネルギーです。
国際リニアコライダー: 日本が誘致を検討している電子・陽電子線形衝突器です。エネルギーは250GeVから始まり、最終的には1TeVまで拡張可能です。電子・陽電子衝突は陽子衝突よりもクリーンで、精密測定に適しています。
ミューオンコライダー: 新しい概念として、ミューオンを加速して衝突させるコライダーが提案されています。ミューオンは電子よりも200倍重いため、同じエネルギーでもシンクロトロン放射による損失が小さく、効率的に高エネルギーを実現できます。
これらの将来加速器は、それぞれ異なる利点を持ち、相補的な探索を可能にします。高エネルギー陽子衝突器は、重い新粒子の直接生成に優れています。一方、電子・陽電子衝突器は、精密測定を通じた間接探索や、複雑な最終状態の詳細な研究に適しています。
理論の多様化と代替シナリオ
超対称粒子がすぐに見つからない状況を受けて、理論物理学者たちは超対称性以外の可能性も真剣に検討するようになってきました。階層性問題や暗黒物質の問題に対する代替的な解決策が、活発に研究されています。
余剰次元理論では、私たちの宇宙は高次元空間に埋め込まれた4次元の「膜」であると考えます。重力だけが余剰次元を伝播できるとすると、重力が他の力よりも弱く見える理由を説明できます。また、余剰次元のサイズによっては、プランクスケールが実は TeVスケール程度まで下がっている可能性もあります。
リトルヒッグス理論は、ヒッグス粒子を複合粒子とみなし、より基本的な強い相互作用から生じると考えます。この理論では、ヒッグス粒子は新しい対称性によって保護され、量子補正が自動的に打ち消されます。
複合ヒッグス模型も、ヒッグス粒子が基本粒子ではなく、TeVスケールの新しい強い力によって束縛された複合状態だと仮定します。この場合、ヒッグス粒子の質量は複合粒子の束縛エネルギーで決まり、階層性問題は自然に解決されます。
代替理論の特徴:
余剰次元: ミニブラックホールやカルツァ・クライン粒子などの特異な現象を予言します。
リトルヒッグス: TeVスケールに新しい重いゲージボソンや重いトップクォーク的粒子が存在すると予言します。
複合ヒッグス: 部分複合性というメカニズムを通じて、標準理論の粒子の質量を生成します。
これらの代替理論も、LHCで実験的に検証されています。現在のところ、明確な証拠は見つかっていませんが、探索は継続されています。超対称性と同様に、これらの理論も、観測されない場合には、より重いエネルギースケールへと押し上げられていきます。
おわりに:科学的探求の本質
超対称性の探索は、現代物理学における最もエキサイティングで挑戦的な課題の一つです。40年以上にわたる理論的研究と、世界最大の実験施設を用いた探索にもかかわらず、超対称粒子はまだ見つかっていません。この事実は、自然界の仕組みが私たちの期待よりも複雑であることを示唆しているのかもしれません。
しかし、超対称粒子が見つからないことは、決して失敗ではありません。科学的探求の本質は、予想が正しいかどうかを実験で検証し、自然界の真実に迫ることにあります。超対称性理論は、標準理論を超える物理学を体系的に探索するための強力な道具を提供してきました。その過程で、加速器技術、検出器技術、データ解析手法など、多くの技術革新が生まれました。
今後も、より高いエネルギー、より高い衝突頻度、より精密な測定を通じて、探索は続けられます。超対称粒子が発見されれば、それは物理学の新しい時代の幕開けとなるでしょう。一方、さらに高いエネルギー領域でも超対称粒子が見つからなければ、私たちは自然界に対する理解を根本から見直す必要があるかもしれません。
いずれの結果になったとしても、それは人類の知識の境界を押し広げる貴重な一歩となります。超対称性の謎の解明は、宇宙の起源や構造、そして自然界を支配する究極の法則を理解するための、長い旅路の一部なのです。物理学者たちは、答えを見つけるまで、そしてさらにその先へと、探求を続けていくでしょう。
