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宇宙の起源という究極の問い
私たちが暮らすこの宇宙は、いつ、どのように始まったのでしょうか。この問いは人類が古代から抱き続けてきた最も根源的な疑問のひとつです。二十世紀に入り、科学は観測と理論の両面から宇宙の起源に迫る試みを本格化させました。
現代宇宙論における最も重要な発見は、宇宙が膨張しているという事実です。エドウィン・ハッブルによる銀河の後退速度の観測は、宇宙が静的なものではなく時間とともに変化していることを明らかにしました。膨張している宇宙を時間を遡れば、過去のある時点で宇宙は極めて高温高密度の状態にあったはずです。この考え方がビッグバン理論の基礎となりました。
しかし、ビッグバン理論には深刻な問題がありました。一般相対性理論によれば、宇宙の始まりには時空の曲率が無限大になる特異点が存在します。この特異点では物理法則が破綻してしまい、科学的な記述ができなくなるのです。
この難問に対して一九八三年にスティーブン・ホーキングとジェームズ・ハートルが提案したのが「無境界仮説」です。この革新的な理論は、宇宙の始まりには実は境界がなく、時間という概念そのものが特異点において通常とは異なる性質を持つと主張します。
無境界仮説が登場した背景
無境界仮説を理解するには、二十世紀物理学の二大理論である一般相対性理論と量子力学について知る必要があります。アインシュタインが一九一五年に完成させた一般相対性理論は、重力を時空の曲がりとして記述する幾何学的な理論です。一方、量子力学は原子や素粒子といったミクロな世界を支配する法則を記述します。
これら二つの理論はそれぞれの適用範囲内では驚くほど正確ですが、両方が同時に重要になる状況では矛盾が生じます。宇宙の始まりはまさにそのような状況です。ビッグバンの最初期には、宇宙全体が素粒子サイズに収縮しており、極めて強い重力と量子効果が同時に働いていたはずです。この領域を記述するには、一般相対性理論と量子力学を統合した「量子重力理論」が必要になります。
一九六〇年代以降、物理学者たちは量子力学の考え方を重力や時空に適用する試みを始めました。ジョン・ホイーラーとブライス・デウィットは一九六七年に「ホイーラー=デウィット方程式」を提案し、宇宙全体の量子状態を記述する枠組みを構築しました。この方程式は、宇宙の状態を波動関数で表現します。通常の量子力学では電子などの粒子が波動関数で記述されますが、量子宇宙論では宇宙そのものが波動関数を持つという大胆な発想です。
古典的ビッグバン理論の限界
ビッグバン理論は宇宙マイクロ波背景放射の発見や軽元素の存在比など、多くの観測事実によって支持されてきました。しかし、この理論にはいくつかの根本的な限界がありました。
最も深刻な問題は初期特異点の存在です。一般相対性理論の方程式を過去に向かって解いていくと、時刻ゼロの瞬間に密度と曲率が無限大になる点に到達します。この特異点では物理法則が適用できなくなり、科学的な予測が不可能になります。
また、ビッグバン理論は宇宙がなぜ現在のような状態にあるのかを完全には説明できませんでした。たとえば「地平線問題」として知られる謎があります。宇宙マイクロ波背景放射は空のどの方向を見ても驚くほど均一な温度分布を示しますが、標準的なビッグバン理論によれば、宇宙の反対側の領域は光速でも情報をやり取りできないほど離れているはずです。それなのになぜ温度が揃っているのでしょうか。
これらの問題に対して一九八〇年代初頭にアラン・グースらが提案したのがインフレーション理論です。この理論は宇宙が誕生直後に指数関数的な急膨張を経験したと主張し、地平線問題などを解決しますが、それでも初期特異点の問題は残されたままでした。
量子宇宙論という新しいアプローチ
初期特異点の問題を解決するには、宇宙の最初期を量子力学的に扱う必要があります。量子宇宙論は宇宙全体を量子系として記述しようとする野心的な試みです。
通常の量子力学ではシュレーディンガー方程式が粒子の波動関数の時間発展を記述します。しかし、宇宙論では「時間」そのものが動的な変数であり、外部の絶対時間という概念が存在しません。ホイーラー=デウィット方程式はこの問題に対処するため、時間微分を含まない形式になっています。
宇宙の波動関数という概念は直感的に理解するのが難しいものです。電子の波動関数であれば「ある位置で電子を見出す確率の振幅」という解釈ができます。同様に、宇宙の波動関数は「ある特定の三次元幾何学を持つ宇宙が実現する確率の振幅」を表していると考えられます。
しかし、ホイーラー=デウィット方程式だけでは宇宙の状態を一意には決められません。この方程式は多くの解を持ち、どの解が実際の宇宙に対応するかを決める追加的な条件が必要です。これは境界条件の問題として知られています。この境界条件をどう選ぶかは単なる技術的な問題ではなく、「なぜ宇宙はこのような状態にあるのか」という根本的な問いに答えることに他なりません。
無境界仮説の基本的な考え方
無境界仮説の核心的なアイデアは驚くほどシンプルでありながら深遠です。それは「宇宙には境界がない」という主張です。ここで言う境界とは空間的な端ではなく、時間的な始まりのことを指します。
この主張は一見矛盾しているように思えます。ビッグバン理論によれば宇宙には始まりがあるはずなのに、どうして境界がないと言えるのでしょうか。この謎を解く鍵は「虚時間」という概念にあります。
通常、時間は実数で表されますが、数学的には時間を虚数で表すこともできます。虚数とは二乗するとマイナスになる数のことです。虚時間を導入すると時空の性質が根本的に変わります。通常の時空では時間方向と空間方向は明確に区別されますが、虚時間の世界ではこの区別がなくなり、時間も空間と同じような性質を持つようになるのです。
ホーキングとハートルは宇宙の始まりを記述する際に時間を虚数化することを提案しました。これを「ユークリッド化」と呼びます。ユークリッド化された時空では時間と空間の区別がなくなり、四つの方向すべてが空間的な性質を持ちます。このユークリッド時空を使うと、宇宙の始まりを滑らかな幾何学として記述できるのです。
具体的には、ユークリッド化された宇宙は南半球のような形状を持ちます。南極点が宇宙の「始まり」に対応しますが、南極点は地球の表面上の他の点と何ら変わりありません。地球の表面に端がないように、ユークリッド化された宇宙にも境界がないのです。南極から北極に向かって緯度が上がっていくように、虚時間が進むにつれて宇宙は大きくなっていきます。ある時点で虚時間から通常の実時間に移行すると、そこから先は私たちが知る膨張する宇宙になります。
この描像において重要なのは、宇宙の「始まり」が特異点ではなく滑らかな点として扱われることです。南極点が地球表面の他の点と数学的に同じであるように、宇宙の始まりも他の時空点と同じ性質を持ちます。物理法則は破綻せず、すべての時空点で有効なのです。
ホーキング自身が述べたように、「宇宙の境界条件は、境界がないということである」というのが、この理論の最も簡潔な表現なのです。
虚時間とユークリッド化の数学的意味
無境界仮説の核心にある虚時間という概念は、多くの人にとって不可解に思えるかもしれません。しかし、この数学的手法は理論物理学において長い歴史を持ち、量子力学や統計力学の計算で広く使われてきました。
通常の時空は「ミンコフスキー時空」と呼ばれる構造を持っています。この時空では、時間座標と空間座標が異なる符号で現れます。具体的には、時空間隔を計算する際に、時間成分はマイナスの符号を持ち、空間成分はプラスの符号を持ちます。この符号の違いが、時間と空間の本質的な違いを表しているのです。
ところが、時間座標を虚数倍すると、この符号の違いが消えます。虚数単位は二乗するとマイナス一になるため、虚時間の二乗項は実時間の場合とは逆の符号を持つことになります。その結果、すべての座標が同じ符号で現れる「ユークリッド時空」が得られます。これがユークリッド化と呼ばれる操作です。
ユークリッド時空では、時間方向と空間方向の区別がなくなります。四次元すべてが空間的な性質を持つため、通常の四次元空間の幾何学として扱うことができます。南半球の比喩で説明したように、この空間には特異な点や境界が存在せず、滑らかに閉じた構造を持つことができるのです。
経路積分による波動関数の計算
無境界仮説は、宇宙の波動関数を経路積分という手法で計算します。経路積分はリチャード・ファインマンが開発した量子力学の定式化であり、粒子がたどりうるすべての経路に対して確率振幅を計算し、それらを足し合わせることで量子現象を記述します。
宇宙論への応用では、経路積分の対象は粒子の軌道ではなく、時空の幾何学そのものです。ある三次元空間の幾何学から別の幾何学へと至る、可能なすべての四次元時空に対して重みを計算し、それらを足し合わせることで宇宙の波動関数が得られます。
この計算において重要な役割を果たすのが、アインシュタイン=ヒルベルト作用と呼ばれる量です。これは時空の曲率に関係した量で、各時空の幾何学がどれだけ「ありそうか」を決める指標となります。作用が小さい時空ほど大きな重みを持ち、波動関数への寄与が大きくなります。
無境界仮説の提案では、境界のない時空だけを経路積分に含めます。つまり、時間的な始まりの境界を持たず、滑らかに閉じたユークリッド時空のみが考慮されるのです。この条件が、宇宙論的境界条件として機能します。
無境界仮説が予測する宇宙の性質
無境界仮説は単なる数学的な枠組みではなく、観測可能な宇宙の性質について具体的な予測を行います。これらの予測を検証することで、理論の妥当性を評価できる可能性があります。
宇宙の初期条件に関する予測
無境界仮説から導かれる重要な結果のひとつは、宇宙が自然にインフレーションを起こす傾向があるということです。計算によれば、無境界条件のもとで最も確率が高い宇宙の歴史は、初期に急速な膨張期を含むものになります。これはインフレーション理論と整合的な結果であり、二つの理論が互いに補完し合う関係にあることを示唆しています。
また、無境界仮説は宇宙の空間的な曲率についても予測を与えます。理論によれば、宇宙は平坦に近い、あるいはわずかに正の曲率を持つ傾向があります。これは宇宙マイクロ波背景放射の観測結果とよく一致しています。実際の観測では、宇宙の曲率は誤差の範囲内でゼロと一致しており、無境界仮説の予測を支持しています。
宇宙の大規模構造への影響
無境界仮説は宇宙の密度揺らぎのスペクトルについても予測を行います。密度揺らぎとは、初期宇宙における物質分布のわずかな不均一性のことで、これが重力によって成長し、現在見られる銀河や銀河団などの大規模構造を形成しました。
理論計算によれば、無境界仮説は「スケール不変に近い」密度揺らぎのスペクトルを予測します。これは、異なる空間スケールでの揺らぎの強度がほぼ同じであることを意味します。この性質は実際の宇宙マイクロ波背景放射の観測で確認されており、理論の重要な成功例となっています。
ただし、詳細な計算結果は使用する物理モデルに依存します。特に、インフレーションを引き起こす場の性質によって、予測されるスペクトルの細かい特徴が変わります。このため、無境界仮説の検証には、理論と観測の両面でさらなる精密化が必要です。
無境界仮説をめぐる議論と課題
無境界仮説は提案以来、理論物理学界で活発な議論の対象となってきました。この理論には魅力的な側面が多い一方で、解決すべき課題も存在します。
理論の解釈に関する問題
最も根本的な問題のひとつは、虚時間の物理的解釈です。計算技法としての虚時間の有用性は広く認められていますが、それが物理的な実在を持つのかどうかについては議論があります。ホーキングは虚時間を「実時間と同じくらい実在的」と主張しましたが、多くの物理学者はこれを数学的な道具と見なしています。
また、宇宙の波動関数という概念そのものにも解釈上の困難があります。通常の量子力学では、波動関数は観測によって収縮し、特定の状態が実現します。しかし、宇宙全体を記述する波動関数の場合、誰が観測者なのでしょうか。この問題は「量子測定問題」の宇宙論版であり、完全には解決されていません。
計算上の困難
無境界仮説に基づく具体的な予測を導出することは、技術的に極めて困難です。経路積分の計算は、単純化された模型でさえ複雑な数学的手法を必要とします。現実的な宇宙モデルに対しては、多くの場合、近似的な計算しか行えません。
特に問題となるのは、インフレーションを引き起こす場の量子揺らぎを正確に扱うことです。これらの揺らぎが宇宙の大規模構造の種となるため、精密な予測には揺らぎの詳細な計算が不可欠です。しかし、完全な量子重力理論が確立していない現状では、計算結果の信頼性に限界があります。
代替理論との比較
無境界仮説以外にも、宇宙の境界条件を提案する理論が存在します。たとえば、アレクサンダー・ビレンキンは「トンネル仮説」を提唱しました。この理論では、宇宙は量子トンネル効果によって「無」から生まれたと考えます。トンネル仮説も虚時間を使用しますが、境界条件の設定が無境界仮説とは異なります。
これらの理論はいずれも初期特異点の問題を回避しようとするものですが、導かれる予測には微妙な違いがあります。将来的により精密な観測が可能になれば、どの理論がより実際の宇宙を正確に記述しているかを判定できるかもしれません。現時点では、理論の数学的一貫性や概念的な美しさが評価の基準となっています。
観測による検証の可能性
無境界仮説は極めて抽象的な理論ですが、宇宙の観測可能な性質について予測を行うため、原理的には実験的な検証が可能です。現代の宇宙観測技術の進歩により、この理論を間接的にテストする道が開かれつつあります。
宇宙マイクロ波背景放射は、無境界仮説の検証において最も重要な観測対象です。ビッグバンから約三十八万年後に放たれたこの放射は、初期宇宙の状態に関する豊富な情報を含んでいます。プランク衛星などの観測機器は、この放射の温度分布を極めて高い精度で測定しており、そこから初期宇宙の密度揺らぎの性質を知ることができます。
無境界仮説が予測する密度揺らぎのスペクトルは、観測されたスペクトルとおおむね一致しています。特に、スペクトル指数と呼ばれるパラメータの値は、理論予測の範囲内に収まっています。ただし、この一致だけでは無境界仮説が正しいと断定することはできません。他の理論も同様の予測を与える可能性があるからです。
より決定的な検証には、原始重力波と呼ばれる現象の観測が期待されています。インフレーション期に生成された重力波は、宇宙マイクロ波背景放射に特徴的な偏光パターンを刻印します。この偏光信号を検出できれば、インフレーションの詳細なメカニズムがわかり、無境界仮説の予測と比較することができます。現在、複数の観測プロジェクトがこの信号の検出を目指して進行中です。
量子重力理論の発展と無境界仮説
無境界仮説のより厳密な検証には、完全な量子重力理論の確立が不可欠です。現在、量子重力理論の有力候補として、超弦理論とループ量子重力理論という二つのアプローチが研究されています。
超弦理論は、素粒子を点ではなく一次元の「弦」として扱う理論です。この理論は自然に重力を含み、量子力学と一般相対性理論を統一する枠組みを提供します。超弦理論の枠組みで無境界仮説を再定式化する試みも行われており、理論の数学的な一貫性を検証する研究が進んでいます。
一方、ループ量子重力理論は時空そのものを量子化するアプローチです。この理論では、時空が離散的な構造を持つと考えられており、ビッグバン特異点が自然に回避される可能性が示唆されています。ループ量子宇宙論と呼ばれる分野では、無境界仮説と類似した結論が異なる方法で導かれることもあり、興味深い比較研究が行われています。
これらの理論的発展により、無境界仮説の数学的基礎がより堅固になり、より精密な予測が可能になることが期待されています。
無境界仮説の哲学的含意
無境界仮説は科学理論であると同時に、宇宙の起源や存在に関する深い哲学的問いを提起します。この理論が示唆する宇宙観は、私たちの世界理解に根本的な影響を与える可能性があります。
「無」からの創造という概念
無境界仮説は、宇宙が特別な初期条件なしに自発的に生まれることを示唆します。境界がないという条件だけで宇宙の波動関数が決まるため、外部からの介入や設定を必要としません。この意味で、宇宙は文字通り「無」から生まれたと言えるかもしれません。
ただし、ここで言う「無」は完全な無ではありません。量子力学の法則や時空の幾何学的構造といった数学的枠組みは前提とされています。これらの法則自体がどこから来たのかという問いは、物理学の範囲を超えた哲学的・形而上学的な問題として残ります。
時間の始まりと因果律
無境界仮説によれば、時間には始まりがありません。より正確に言えば、宇宙の「始まり」は特異な瞬間ではなく、南極点のような滑らかな点として扱われます。この描像は、「時間の前には何があったのか」という古典的な問いを無意味にします。南極点の南に何があるかと問うことが無意味であるように、宇宙の始まりの前を問うことも意味を持たないのです。
この考え方は因果律についても興味深い示唆を与えます。通常、私たちは原因が結果に先行すると考えますが、時間そのものが始まる点では、この因果関係の連鎖が途切れます。無境界仮説では、宇宙全体が自己完結した因果構造を持ち、外部の原因を必要としないのです。
宇宙の唯一性と多宇宙論
無境界仮説は、私たちの宇宙が唯一の可能性なのか、それとも多くの可能な宇宙のひとつなのかという問題にも関係します。量子力学的には、宇宙の波動関数は複数の異なる宇宙の重ね合わせを表している可能性があります。
観測行為によって波動関数が収縮し、ひとつの宇宙が実現するという解釈もありますが、これには先述の観測者問題が付随します。別の解釈として、エヴェレットの多世界解釈を適用すれば、すべての可能な宇宙が並行して存在することになります。無境界仮説自体はこれらの解釈問題に決定的な答えを与えませんが、宇宙の多様性について考える新しい枠組みを提供しています。
現代における無境界仮説の位置づけ
無境界仮説が提案されてから四十年以上が経過し、この理論は宇宙論研究において重要な地位を占めています。完全に確立された理論とは言えませんが、宇宙の起源を科学的に探究する上で欠かせない視点を提供しています。
近年の研究では、無境界仮説の予測をより精密化する試みが続けられています。特に、インフレーションモデルとの組み合わせにより、観測可能な量についての具体的な予測を導出する研究が進んでいます。また、計算機シミュレーションの発展により、複雑な時空の幾何学に対する経路積分の数値計算も可能になりつつあります。
一方で、理論の根本的な問題、特に虚時間の解釈や宇宙の波動関数の意味については、依然として議論が続いています。これらの概念的困難は、量子重力理論そのものの未完成さを反映しているとも言えます。
今後の展望
無境界仮説の未来は、以下の複数の要素に依存しています。
観測技術の進歩 次世代の宇宙マイクロ波背景放射観測衛星や地上望遠鏡により、初期宇宙の性質がより詳しく解明されるでしょう。原始重力波の検出に成功すれば、インフレーション理論と無境界仮説の予測を直接比較できる可能性があります。重力波天文学の発展も、宇宙初期の極限状態に関する新たな情報をもたらすかもしれません。
理論物理学の発展 超弦理論やループ量子重力理論などの量子重力理論が成熟すれば、無境界仮説をより厳密な基礎の上に構築できるでしょう。また、ホログラフィー原理など、新しい理論的アイデアが無境界仮説の理解を深める可能性もあります。
学際的研究の進展 宇宙論と素粒子物理学、数学、計算科学、さらには哲学との対話により、無境界仮説が持つ多面的な意義がより明確になると期待されます。
無境界仮説は、宇宙の最も根源的な謎に挑む人類の知的探求の象徴です。完全な答えにはまだ到達していませんが、この理論が切り開いた研究の道は、私たちの宇宙理解を着実に深めています。ホーキングとハートルが提示した「境界のない宇宙」というビジョンは、今後も多くの研究者を鼓舞し続けるでしょう。

